吉川霊華展@東京国立近代美術館
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マウリッツと同じく7月に行った展覧会ですが、既に終わってしまっているのでこっそりアップ。
東近美で開催されていた「吉川霊華展 近代にうまれた線の探究者」展。
学芸員が作品の所在から探すというところから始まった発掘展のような展覧会。
今まであまり取り上げられる機会の少なかったこの画家の30年ぶりに回顧展が可能になったのは、開館60周年記念事業のひとつだったからだそうです。
作品のほとんどが個人蔵ということで、なかなか見る機会がないことも、この画家が知られていない理由のひとつ。
確かに、私も全然知らない画家でしたが、NHKのアートシーンで知って、「絶対見たいー」と最終日に滑り込みで見に行きました。

吉川霊華は明治大正と活躍した画家で、若い頃はあまり展覧会には出品せず、画壇の評価より自身の研究に熱心だったようで、30代で既に「文人」の風格があったとか。
この「楊柳観音像」は彼が17歳の時の作品です。
17歳!!どーしたらこんな絵が描けるのか・・・

第1章「模索の時代」では、40冊近いスケッチ帳が展示され、彼がとても研究熱心だったことが伝わる記録が沢山ありました。
先日のベルリン美術館展でミケランジェロの素描を見た時にも思いましたが、こういうスケッチ帳は画家の試行錯誤の軌跡が辿れて面白い。



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41歳の時に参加した「金鈴社」という団体は、各自が自由に研究したテーマを発表する場であり、霊華はこの場を得てさらに研究を深めたようです。
このような時流に関係の無い絵が発表できる場があるということが、結果独自性のある画家を育てるんだなぁ。

金鈴社での7年間の活動のうちに、霊華は画壇から高く評価されるようになり、作品を出品せずとも帝展の推薦を受け、審査員になるほどになったそうです。

第3章「円熟の時代」では、霊華が描いた作品が3つのテーマごとに見ることが出来ました。
この「羅浮僊女」は、「Ⅰ. 中国の詩と説話」のカテゴリーの1つ。
隋代の官僚が、道教の聖地である羅浮山で美女に出会い、酒を酌み交わしたがその美女は梅の精だった、というお話。
線だけで表現された梅の木が見事です。


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「Ⅱ. 和歌と古典物語」では、絵だけでなく美しい霊華の文字にも魅了されました。
この「伊勢物語 つつゐづつ」では、幼いころの風景に大人になって送り合った歌が散らし書きされ、絵と仮名文字が一体になった世界を作り上げています。
こんな絵が沢山あって、もーーーーー悶絶。


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「清香妙音」はお能の題材から取ったものだそうで、枇杷をつま弾く女人は和泉式部の亡霊。
美しい十二単を纏う式部の背景には、式部が手ずから植えたと言う梅が描かれています。
この絵、本物の迫力は本当にすごくて、線で表現する大和絵の素晴らしさを実感する絵でした。


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最後のテーマは「Ⅲ. 仏と祈り」で、展覧会では5点のみの展示でしたが、実際は多くの仏画を描いたそうです。

これは紺の絹に金泥で描かれた「吉祥天女」(部分)。
とても美しい吉祥天で、思わずこの前で手を合わせたくなる神々しさです。

「正しき伝統の理想は復古であると同時に未来である」という信念のもと、線描美を追求した吉川霊華。
彼が極めた線描の美しさにどっぷり浸ることが出来た展覧会でした。本当に美しかった!

個人蔵が作品の大半を占めるので、このような大きな展覧会を見ることは今後なかなか難しいかもしれませんが、機会があればひとつでも多く作品を見たいと思う画家でした。

by ruki_fevrier | 2012-07-29 23:59 | | Trackback | Comments(0)


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